「デジタル円」に関する記事ですが…

2023年3月30日(木)

日本銀行の黒井田総裁が、「中央銀行デジタル通貨」に関して、個人的な見解ですが「今後実現していかなければならない」と強調したそうです。

日銀の黒田東彦総裁、デジタル円「実現していく」 重要性強調 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

日本銀行としては、現時点で「中央銀行券であるデジタル通貨」の発行はしないと表明していますが、2020年10月に公表した「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」に沿って、2021年4月から「中央銀行デジタル通貨=CBDC」の実証実験を進めています。本年4月からは「パイロット実験」を実施するそうで、2023年2月17日「CBDCフォーラム」への参加希望者を対象とした説明会を開催すると発表していますが、消費者や利用できる店舗が直接関与して実際の取引を行うのではなく、中核を担うシステムと既存の仲介システムとの連携や各種デバイスとの連携等を想定した実験をすると言われています。

社会・経済のデジタル化はグローバルで進展することは避けることができない状況にあり、SDG‘sという観点から「金融包摂」を実現する手段としても積極的に取り組まれており、日本だけではなく、各国の中央銀行も、積極的に検討を進めています。
中国で実証実験が行われている「デジタル人民元」はスタートからの取引高が6000億元(約1兆円) を超えたと言われていますし、ユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)も2020年に報告書を公開し検討を進めており、今後世界規模で利用が進む可能性は高いのではないでしょうか。

仮想通貨の一つとしてブロックチェーン(分散型台帳)上で設計される「ステーブルコイン(=担保などにより価格が大きく変動しない安定したコイン)」の法定通貨担保型に関してはCBDCに近い性質を持っていますが、Fasebookが発表したステーブルコインの一種である「Libra構想」は実現されることなく幕引きとなっていますし、米国で発生したコイン発行者である民間事業会社の運営管理体制の脆弱性により価値が暴落する等問題も顕在化し取締り強化が検討される中、国内では地方銀行が「ステーブルコイン」発行の実証実験を開始することが発表されています。

日本銀行としては、中央銀行券としての「デジタル通貨」を発行するものではなく、現在、民間事業会社が積極的に提供している「デジタル決済(電子マネーやQRコード決済等)」サービスを補完する観点から機能検証するという立ち位置を示しています。
全ての国民が「何時でも、どこでも、便利に、安全かつ安心して、適正な対価」で利用できるサービス環境として、デジタル決済の基盤が確立できれば良いのですが、消費者が利用できる機能(=ICカード媒体やスマートフォンアプリ)の提供と同時に利用できる場所=ネットワークの整備(現実と仮想環境)、更には、資金決済に関する仕組み(全銀ネット等の既存インフラを利用するのか、ブロックチェーン等の最新技術を利用し新たに開発するのか)をサービス提供事業体が単体で構築するとなると、必用となるインフラ整備への投資資金をどのように回収するのか考えなければなりません。「決済と送金」という事業のみではROI=投資対効果の極大化は難しいのが現実であり、民間主体での実現は厳しいのではないでしょうか。

そういう意味からも、国民生活向上の政策の一環として整備するのであれば、国と民間が相互に協力・費用負担し合いインフラを整備して運用する仕組みを確立することがベストと思います。現在、金融機関が提供する「預金」はある意味デジタル化された通貨であり、中央銀行である日本銀行も係わり安定した決済スキームが構築されている点を考えるならば、「ステーブルコイン」発行の実証実験のように金融機関が主体となり積極的に事業化を検討するよう声を上げてもらいたいものです。

 

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